なぜ足元の環境はCLOへの投資を検討するのに好ましいのか
第1四半期におけるCLO市場の発行は過去最高を記録しました。年後半における経済成長への期待から、パフォーマンスは全般的にプラスとなったものの、第1四半期末にかけて発生した大量の新規発行は市場の重石となりました。AAA格、AA格およびA格のパフォーマンスは、各0.49%、0.95%、1.46%となった一方、BBB格、BB格およびB格も各1.60%、2.98%、12.69%とプラスのパフォーマンスとなりました1。
発行市場における大量の新規案件は市場の重石に
景気回復局面の中、昨年の市場のボラティリティ上昇において、ほぼ様子見モードであった米国の銀行および資産運用会社が再度市場に参入したことから、高格付CLOに対する需要が年初に急増しました。その結果、1月末にかけてスプレッドは大幅に縮小し、金融危機以降の最低水準に近づく局面も散見されました。また、同時期においては、2018年および2019年に組成された案件の多くがノンコール期間の満了を迎えました。このような状況の中、エクイティ投資家はスプレッドの縮小および負債調達コストの低下を活用した案件のリファイナンスおよびリセットを実行し、当四半期においてこれらの案件が相次ぐ状況となりました。結果 米国および欧州における新規発行額は各1,027億米ドルおよび239億ユーロと記録的な水準に達し、その大部分をリファイナンスおよびリセット案件が占めました。
図1: CLO新規発行総額(月次、10億米ドル)
出所: J.P. Morgan 2021年3月末現在
第1四半期の進展に伴い、大量の新規発行が市場における投資家全体の需要を試した一方、投資家、アレンジャーおよび格付機関に対して大きな負担をもたらしました。3月初旬に新規発行は需要を上回り、程度の差こそあるものの、スプレッドは全トランシェに亘り拡大しました。例えばAAA格は、若干スプレッドが拡大したものの、過去比較において引き続きタイトな水準に留まっていることから、今後もリファイナンスおよびリセットによる新規発行は活況を呈すると思われます。一方、低格付けのBBトランシェのスプレッドは大きく拡大しました。
このような状況にもかかわらず、CLOの裏付資産におけるリスク特性は、直近数ヶ月においてほとんど変化が見られませんでした。以前のレポートにおいても言及した通り、裏付資産であるバンクローンの格下げは大幅に減少し、一部の市場関係者が当初予想していた状況よりもはるかに健全な状態となっています。また、マクロ環境が改善する中、デフォルト率に対する予想も1年前と比較して大幅に低下しています。
同時に魅力的な投資機会も出現
前述の通り、足元におけるスプレッドの拡大は、裏付資産の質の悪化によるものではなく、その大部分が市場の需給要因(新規発行の増加)に起因するものと思われます。このような状況下にあっては、アクティブ・マネジャーにとって魅力的な相対価値を有する投資機会に恵まれる可能性があり、実際、そのような投資機会はすでに出現しています。一方、このような投資機会を捕捉するには、ボトムアップ・アプローチに基づく、厳格な銘柄およびマネジャー選択を行うためのリソースを抱えることが肝要となります。
全トランシェに亘り直近数ヶ月において生じた変化として、ベアリングスは新規案件対比において、特にリファイナンスおよびリセット案件、並びに発行されてから一定期間が経過した流通市場の案件に価値があると見ています。これらの案件は、新型コロナウイルスから影響を受けたセクターへのエクスポージャーが大きい場合もありますが、多くは裏付資産の質が高く、現時点においてほとんど、あるいは全く損失が発生していません。さらに、リファイナンスおよびリセットの大量発生、並びに前述の関係者への負担増により、いくつかの案件は市場から見落とされ、過小評価されている場合があります。この傾向はメザニン・トランシェにおいて最も顕著であり、裏付資産の質が高い発行後一定期間経過したBB格は、新規案件よりも50~100bps拡大した水準で取引されています。このような大幅なスプレッド格差は、新規案件と比較した際の裏付資産における質の差を考慮した場合においても、十分に魅力的であると思われます。
また、ハイイールド債券や投資適格社債などの固定金利商品と比較した場合、CLOは変動金利であることから、デュレーションもしくは金利リスクが低く、金利上昇局面においても価格は安定的に推移する傾向にあることも注目に値します。加えて、CLOは同程度の格付を有する投資適格社債やハイイールド債券と比較して、より高い利回りを提供する傾向にあります。例えば、足元における市場の取引水準に基づき、CLOのBB格はバンクローン市場の約2倍のスプレッドを提供しており、投資家は同一もしくは類似の資産を異なる形式で保有することにより、スプレッドの大幅な改善が見込まれます。このような理由により、CLOをより広範なハイイールドおよび投資適格級のマルチ戦略の一部に組み入れることも有効です。
今後の見通し
今後、新型コロナウイルス感染拡大に伴う不確実性は依然残るものの、米国を中心に景気は回復基調を辿ると思われます。このような環境の中、需要は引き続き堅調である一方、2020年に組成された負債コストの高い案件の多くが2021年4月初めにノンコール期間1年の満了を迎えることから、リファイナンスおよびリセットを含む新規発行も引き続き活況を呈すると予想しています。このため、スプレッドは短期的にはレンジ内での推移となる可能性がありますが、発行後一定期間が経過し、ファンダメンタルズ対比でスプレッドが拡大している流通市場の案件を中心に、投資機会が出現すると見ています。一方、資本構造の上下を問わず、最良の絶対および相対価値を提供する投資機会を特定するにあたり、アクティブ・マネジメントおよび豊富な人材と経験を兼ね備えたチームは不可欠であり、今後のマネジャーにおける重要な差別化要素になると思われます。
1. 出所: J.P. Morgan CLOIE Index 2021年3月末現在
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