ハイイールド:テクニカル面から投資機会が生じる
困難なテクニカル面の状況により、ハイイールド債券のスプレッドはファンダメンタルズが示唆する以上に拡大したため、特にバンクローンや優先担保付債券は堅調なパフォーマンスを上げる可能性があります。
タカ派的な中央銀行が数十年に一度の高インフレを抑制しようと試み、ウクライナ戦争により食糧およびエネルギー価格の不確実性が高まる中、市場の変動は大きくなっています。経済指標が強弱混合であることと相まって、投資家は、こうしたリスクを踏まえて経済のハードランディングおよび景気後退懸念を強めています。ハイイールド債券も他の資産クラスと同様に、金利上昇とスプレッドの拡大により第2四半期のパフォーマンスはマイナスとなりました。しかし、ハイイールド債券は比較的高いインカムが期待できる上、ファンダメンタル面も安定していることから、市場が落ち着きを取り戻せばプラスのパフォーマンスを実現する可能性があると考えます。
テクニカル面の悪化が底堅いファンダメンタルズ面を凌駕
景気後退懸念が高まる中、市場のセンチメントは悪化し、ハイイールド債券を取り巻くテクニカル面は厳しさを増しています。年初来数ヶ月は、ハイイールド債券のパフォーマンスは金利上昇主導によるマイナスのパフォーマンスとなりましたが、経済成長に対する懸念が強まる中でスプレッドが大幅に拡大したため、状況は一転しました。このスプレッド拡大は、流動性の悪化と適度な資金流出によってさらに深刻化しました。特にバンクローンにおいては、歴史的にバンクローン需要の大部分を占めてきたローン担保証券(CLO)の新規発行の減少が影響しました。
重大なテクニカル面における圧力が確認される一方、裏付け資産となる社債のファンダメンタルズが依然として堅調であることは重要です。多くの場合、企業収益とキャッシュフローは2019年の水準か、もしくはそれを上回っています。多くの企業がインフレ圧力を販売価格に転嫁することが可能だったため、記録的なマージンを実現しました。さらに、多くのハイイールド発行体が、健全な資本市場を活用して従前から借り換えを行い、クーポンの支払いを削減すると同時に満期を先延ばししています。インフレが長期化し、金融環境が引き締めになればなるほどファンダメンタルズは悪化すると思われますが、企業はこの困難な局面に対し万全の状況で臨んでいます。実際、現在の信用スプレッドが示唆するデフォルト水準に達する可能性は極めて低いと思われます。実際、景気後退シナリオ下の合理的なデフォルト予測によると、現在投資家に提供されているスプレッド、すなわち流動性プレミアムがまだ相当程度存在していることを示唆しています。
魅力的な投資機会を提供する可能性
ハイイールド債券とバンクローンのリターンの源泉はインカムであるため、スプレッドが歴史的に拡大した水準で推移したとしても、同資産クラスは今後12ヶ月にわたって魅力的なリターンを創出する可能性があります。特にバンクローンは年内に追加的な大幅な金利上昇が予想されることから、インカムは年末までに約8%に増加すると思われます。マクロ面の不確実性と足元数ヶ月の市場全体における急落を背景に、ハイイールド市場内の上位格付け部分に若干の選好を有していますが、綿密なボトムアップ分析を通じて全格付けにバリューがあると考えます。
バンクローン
また、テクニカル面のプレッシャーにより、ファンダメンタルズが示唆する以上にスプレッドが拡大しているため、投資機会が存在すると見ています。特に優先担保付ローンは魅力があると思われます。バンクローンは、年初数ヶ月こそ耐性を見せたものの、足元では市場全体における変動の影響を受けています。同時に、同資産クラスは今年前半の大幅なアウトパフォームにより、キャッシュ化ニーズを有する一部投資家を中心に資金が流出しました。このような動向とCLOの需要低下により、スプレッドは6週間で150~200bps拡大し、世界金融危機やソブリン債危機、パンデミック初期以来の水準となりました(図1)。
図1: 過去のイベント時におけるスプレッド水準(bps)
出所: Barings and Credit Suisse 2022年6月末現在。米国バンクローンはCredit Suisse Leveraged Loan Index、欧州バンクローンはCredit Suisse Western European Leveraged Loan Index(非米ドル建て)。(スプレッドは3年ディスカウント・マージン)
これは、バンクローンが借り手資産の一部または全部を担保としているという事実に加え、デフォルト時に借り手資産に対して第一優先権を有するため、投資家にさらなる信用リスク保護を提供するものとなっています。世界的にデフォルト率が非常に低い傾向にあるため、この特性は足元ではあまり注目されていませんが、デフォルト率が上昇し始めた場合、実質的にダウンサイド・プロテクションを提供することが可能となります。また、バンクローンは資本構造の上位に位置しているため、バンクローンの利息および元本支払いは、他の債権者に支払われる前に行われます。また、バンクローンは変動金利であるため、金利上昇環境下では、金利の上昇に伴って支払利息も増加するため、安定的にインカムを得ることが可能となります。
現在、これらのポジティブな特性はすべてテクニカル面における圧力から重要視されており、スプレッドが同水準に達したときの過去の経緯を考慮しても、同分野は今後12ヶ月間魅力的なリターンが見込まれると考えています(図2)。
図2: スプレッド拡大局面後の12ヶ月リターン(%)
出所: Barings and Credit Suisse 2022年6月末現在。米国バンクローンはCredit Suisse Leveraged Loan Index、欧州バンクローンはCredit Suisse Western European Leveraged Loan Index(非米ドル建て)。(スプレッドは3年ディスカウント・マージン)。リターンは米ドルヘッジ、最大日次3年ディスカウント・マージン後の12ヶ月間リターン。過去の運用実績は将来の運用成果を示唆するものではありません
優先担保付債券
ハイイールド債券も非常にネガティブなニュースを織り込み始めており、価格低下と適切なクーポン利回りから、魅力的なアップサイドを提供する可能性が見込まれます。特に、優先担保付債券は、ハイイールド債券市場の中で魅力的な投資対象となり得ます。優先担保付ハイイールド債券はバンクローンと同様、企業の様々な資産に担保を設定しているため、企業がデフォルトに陥った場合、無担保債権者に優先して優先的に弁済を受けることが可能となります。
足元では、債券利回りが急上昇した結果、優先担保付債券市場は額面に対して大幅にディスカウントされた水準で取引されるようになりました。その結果、優先担保付債券の利回りは上昇し、現在では9%台に近付きつつあります1。この利回り上昇と大幅なディスカウントの組み合わせは、魅力的なトータルリターンを実現するための理想的な環境であると見ています。
今後の見通し
今後、緩やかな景気後退はあり得ますが、スプレッドが織り込み始めている2008年に生じた事象の再発の可能性は低いと思われます。雇用統計の堅調な推移に加え、企業のバランスシートは過去最大級の流動性を有するため、今後数ヶ月は強気の姿勢をとると思われます。足元数ヶ月においてマイナスのリターンを計上した資産の相関を考慮すると、投資家は多くのリスク性資産を敬遠していることは明白です。しかし、投資家は、魅力的な価格で質の高いハイイールド資産を見出だすことができる段階に来ています。足元の不確実性と、変動の激化が見込まれる時期には、投資機会を見出しさらなる下落を避けるために、アクティブ運用とボトムアップの銘柄選択が重要となります。
1. 出所: ICE BofA BB-B Global High Yield Secured Bond Index 2022年6月末現在
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