ハイイールド:多くの支援材料があるも、困難な道のりの可能性
新型コロナウイルスのワクチンに関するニュースを受けて、ハイイールド資産全般の価格は第3四半期に続き第4四半期も上昇しました。米欧のハイイールド債券およびバンクローン市場においては、ワクチン関連のニュースにより、低格付けであるB格がBB格をアウトパフォームし、大幅に下落したCCC格もその下落幅の多くを取り戻しました。また、同ウイルスの影響をより直接的に受けた航空、旅行・レジャー、ゲームおよびエンターテイメントなどのセクターにおいても価格が上昇しました。
第4四半期のパフォーマンスは、米国ハイイールド債券が6.47%、米国バンクローンが3.64%となりました。欧州においても、ハイイールド債券が5.97%、バンクローンが3.92%とプラスになりました1。第4四半期のパフォーマンスに牽引され、2020年通年におけるハイイールド資産全般のパフォーマンスはプラス圏へと突入し、同ウイルスの感染拡大初期に大きく広範に下落した状況を経て、パフォーマンスの改善は特筆すべきものとなりました。スプレッドもまた、同ウイルス感染拡大以前の水準近辺まで戻しています(図1)。
図1:米欧スプレッドの推移(ハイイールド債券vsバンクローン)
出所: BAML、Credit Suisse 2020年12月末現在
ハイイールド全体の価格が大きく反発し、バリュエーションはより正常な水準に回復したものの、年末に一部で最高値を更新した株式並びに低金利環境および同ウイルスの感染拡大による質への逃避から恩恵を享受した投資適格社債と比較して、同市場の価格上昇が限定的であることは注目に値します。また、スプレッドは年間を通じて縮小したものの、同ウイルスの影響を受けたセクターを中心に依然1年前よりも拡大した水準で取引されています。このような状況は、特に全世界的な低金利およびマイナス金利環境下における投資家の継続的な利回り追求により、今後ハイイールド市場の価格上昇余地が存在する可能性を示唆しています。
流動性とレバレッジ
ハイイールド市場のユニバースにおいては、中央銀行による継続的かつ強力な支援を受けて、ゲーム、旅行およびレジャーなど大きな打撃を受けたセクターを含め、殆どの企業が資金調達を成功させています。投資家は引き続き同市場における企業への資金供給に積極的であったことから、ハイイールド債券の発行額は、2019年の2,740億米ドル(米国)および740億ユーロ(欧州)から2020年には4,410億米ドル(米国)および850億ユーロ(欧州)に増加しました2。これは、多くの企業が、新たな都市封鎖、ワクチン接種に関する不確実性並びにマクロおよび政治的要因から生じる短期的な困難を乗り越えるだけの十分な流動性を有していることを示唆しています。
流動性供給が豊富な環境下において、本年のデフォルト率は想定内に留まると見ており、予想よりも低位となった2020年の水準をさらに下回る可能性があります。また、昨年、多角的かつ大規模な企業が発行する投資適格債券の多くがハイイールド債券に格下げされたことにより、市場におけるクレジットの質が改善したことも支援材料となっています。例えば、米国ハイイールド債券市場におけるBB格の割合は2007年には38%であったものの、足元においては57%にまで上昇しています。また、CCC格は12%未満にまで低下しています3。
一方、企業による負債発行の増加は、同ウイルス感染拡大時におけるコストおよびキャッシュフローの管理において重要な役割を果たしてきましたが、現在の負債水準を長期的に維持することは不可能であると見ています。そのため、今後数年わたり企業はデレバレッジを開始する必要があり、そのペースは償還期限によって左右される可能性があると考えます(図2)。今後高い負債水準を維持可能な企業もあれば(実際、企業による年初の借り換えは活発であった)、大きな困難に直面し、将来のデフォルト率に影響を及ぼす企業も存在すると見ています。
図2:グローバル・ハイイールド債券およびバンクローンの償還期限
出所: BAML U.S. Non-Financial High Yield Constrained Index (HCNF)、BAML European Currency Non-Financial High Yield Constrained Index (HPID)、Credit Suisse Leveraged Loan Index、Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index Non-$US-Denominated Loans。棒グラフはハイイールド債券およびバンクローン総計に対する割合を表示。BAML指数には1年未満の債券は含まれません。2020年12月末現在
価値創出を特定
中央銀行による豊富な流動性供給およびワクチンの普及による潜在的な景気回復を考慮した場合、短期金利の上昇および長く不在であったインフレに対する期待が高まる可能性があります。必ずしも2021年に発生するイベントとして想定する必要はないものの、仮にインフレ率および金利が上昇を開始した場合、バンクローンおよびローン担保債券(CLO)などの変動金利資産への投資を検討することが有益となる可能性があります。他の債券と比較してデュレーションが短いハイイールド債券についても、斯かる状況下においては相対的に有利であると考えます。
バンクローンもまた潜在的に魅力的な投資機会を有していると考えます。同ウイルスの感染拡大以降、複数のテクニカル要因により、バンクローンの価格回復はハイイールド債券と比較して出遅れている傾向にあります。そのため、足元のバンクローン市場は魅力的な相対的および絶対的リターンを提供し、今後の需要回復に伴いテクニカル面においても支援材料となる可能性があると考えます。また、足元におけるバンクローンのスプレッドについても、上述のようにデフォルト率が当初予想された水準よりも低位であることから、投資家に対して十分なリターンを提供していると見ています。
エマージング市場もまた興味深い投資機会の一つです。先進国市場において、景気回復を巡り慎重な楽観論が展開されている一方、急速にGDPが成長する可能性は未だ低い状況にあります。対照的に、エマージング市場における期待成長率は高くなる可能性があり、特に数多くの地域において危機をうまく乗り越え、ロックダウンによる混乱が限定的であったアジアにおいては、その傾向は顕著であると見ています。また、エマージング社債は2020年において最も優れたパフォーマンスを示した資産の一つであり、潜在的な成長率が高い発行体に対して投資機会を提供する一方、市場全体の発行総額が未だ限定的であることから、同ウイルスによる危機を経て、今後さらに魅力的な投資対象となる可能性があります。
結論
ハイイールド市場は同ウイルスの感染拡大以降、底値から大きく回復したものの、低金利および低利回り環境が継続する今日においては、引き続き上昇余地が残ると見ています。一方、政治的論争および世界におけるワクチン接種の実用性など、市場を取り巻く不確実性も数多く存在しています。今後数ヶ月を見通した場合、引き続き回復への道筋がまちまちな経済環境であると想定されることから、短期的なボラティリティ上昇を乗り越え、魅力的なアップサイドの可能性を持つ強固な発行体を特定するため、厳格な銘柄選択は必要不可欠であると考えます。
1. 出所: BAML、Credit Suisse 2020年12月末現在 米ドルヘッジ後リターン
2. 出所: S&P LCD 2020年12月末現在
3. ベアリングスの市場見通しに基づく 2020年12月末現在
当資料は、ベアリングスLLCが作成した資料をベアリングス・ジャパン株式会社(金融商品取引業者:関東財務局長(金商)第396号、一般社団法人日本投資顧問業協会会員、一般社団法人投資信託協会会員)が翻訳したもので、金融商品取引法に基づく開示書類あるいは勧誘または販売を目的としたものではありません。翻訳には正確性を期していますが、必ずしもその完全性を担保するものではなく、 原文と翻訳の間に齟齬がある場合には原文が優先されます。当資料は、信頼できる情報源から得た情報等に基づき作成されていますが、内容の正確性あるいは完全性を保証するものではありません。また、当資料には、現在の見解および予想に基づく将来の見通しが含まれることがありますが、事前の通知なくこれらが変更されたり修正されたりすることがあります。Complied (東京):2021年1月28日 M20211Q19