パブリック債券

エマージング債券は転換期を迎えたか?

2021年4月 – 4 分 レポートを読む
今後数ヶ月間に、エマージング諸国の経済成長が予想以上に上向きになると考えられる理由が存在し、同アセットクラスが堅調なパフォーマンスを上げる可能性があります。

エマージング債券は、新型コロナウイルス感染拡大期には大打撃を受け、多くの国が現在も同ウイルスの新規感染者増大という困難に直面しています。米国10年国債利回りの上昇など先進国における金利上昇も、同アセットクラスにとっては逆風となっています。その結果、ハードカレンシー建てソブリン債券、社債、現地通貨建て債券の1-3月期のリターンは、それぞれ-4.5%、-0.8%、-6.7%と、アンダーパフォームとなりました1。しかしながら、同ウイルス感染拡大の影響で1年前に急落した後、同アセットクラス全体のパフォーマンスは顕著に上昇しており、ハードカレンシー建てソブリン債券、社債、現地通貨建て債券の2020 年3月から2021年3月のリターンはいずれも 10%を超えています。
 

図1:エマージング債券の年初来パフォーマンス

出所: J.P. Morgan 2021年3月末現在
 

ハードカレンシー建てソブリン債券と現地通貨建て債券:ポジティブな成長見通し

金利の上昇は明らかにエマージング市場にとって逆風であり、特にハードカレンシー建てソブリン債はデュレーションが長いため、歴史的に見ても金利の上昇は国外への資本流出を招き、その結果、新興国の資金調達が困難になるケースが散見されました。しかし、今回は過去の状況とは異なると考えられる理由があります。まず、ここ数年で新興国の資金需要は大幅に減少しています。特に、大幅な経常赤字を抱えていた新興国の多くが徐々に経常収支を改善させ、黒字に転換した国も見られました。外国人投資家からの資金調達への依存度が低くなっているため、金利上昇局面での潜在的な資金流出はそれほど問題にならないと見ています。同時に、新興国全体の成長見通しは引き続き下支えされていると見ています。米国や欧州の一部では経済環境の改善が見られ、今後数ヶ月は新興国のコモディティおよびサービスに対する需要を促進すると考えられることに加え、新興国におけるコモディティ需要の太宗を占める中国は同ウイルス感染拡大後堅調な成長を遂げています。コモディティ価格も上昇しており、これがさらなる支援材料となるでしょう。

さらに、資本支援に関して、資本供給が不足しているわけではありません。昨年、多くが必要とした支援となった支払いの一時停止および猶予措置は引き続き有効であり、現在の困難を解決するための時間的猶予を国や企業に与え、新興国に利益をもたらしています。また、各国の様々な機関も債務救済に乗り出しました。例えば、国際通貨基金(IMF)は最近、6,500億米ドルの特別引出権(SDR)を新たに発行する計画を発表しました。SDR は、中央銀行が保有する外貨準備と同様の実質的な準備資産です。そのうち約900億米ドルが新興国に対し発行される予定ですが、IMF は現在同資金の配分方法について議論を重ねています。この重要な救済措置は、一部の国にとって債務不履行か否かの違いを意味するにもかかわらず、市場ではほとんど触れられていません。 

このような要因が重なることで、今年は新興国経済が予想以上のプラス成長となる可能性があり、それが新興国のアセットクラスの強力なサポート要因になると考えます。例えば、通貨は、同ウイルス感染拡大からの回復という点で、広範なエマージング債券ユニバースに出遅れたものの強い反発を見せる可能性があります。実際、各国の資金調達ニーズの低下や、中国および先進国市場からの継続的なコモディティ需要を背景に、通貨は米ドル対比で大きく上昇する可能性があると考えます。 

ハードカレンシー建て債券の観点からは、当社が社内格付で投資適格としているブラジルなどの国については楽観的です。ブラジルでは同ウイルスによる困難に引き続き直面しているにもかかわらず、直近数ヶ月の雇用の伸びが一貫して予想を上回っており、経済活動が改善していることを示唆していると考えます。また、同ウイルス感染拡大後のスプレッドが投資適格国よりも拡大しているハイイールド国にも価値を見出しています。ただし、ハイイールド国の分散を考慮し、資金調達手段が悪化している国は回避し、ウクライナやセルビア、オマーンといった確信度の高い国においてのみポジションを取っています。
 

社債:金利上昇環境下での力強い回復

また、社債にも引き続き投資機会があると考えています。一般的に、ハードカレンシー建てソブリン債券や現地通貨建て債券に比べ、ハードカレンシー建て社債は金利上昇の影響を受けにくいと言われています。これは、ハードカレンシー建てソブリン債券のデュレーションが約8年であるのに対し、ハードカレンシー建て社債のデュレーションは約4年と短いことに起因しています。そのため、歴史的に見ると新興国社債は米国国債利回りの上昇に対する耐性があり、過去10年のうち8年は先進国市場における金利上昇局面においてクレジット・スプレッドは縮小しています2。また、ハードカレンシー建てソブリン債券と同様、先進国市場の金利が高いからといって必ずしもデフォルトの確率が高くなるわけではないことも重要です。社債の場合、CCC格の市場規模は非常に小さいため、金利や資金調達コストの上昇によって市場から締め出されるリスクのある企業はほとんどありません。また、低格付けの CCC格の発行体を含むほとんどの発行体は、市場へのアクセスにより債務の借り換えが可能となりました。 

足元の市場を見ると、スプレッドは同ウイルス感染拡大前の水準近辺もしくはその水準まで回復しています。回復という観点からみると、原油価格の上昇を受けてコモディティが牽引しており、中国からの堅調な需要と相俟って一部の発行体では今年の売上高およびEBITDAが2桁の伸びを示す可能性があります。一方、不動産および運輸セクターは出遅れており、回復までの道のりは長いと見ています。このような背景から、スプレッドは新興国の投資適格社債に比べ依然として拡大しているため、新興国のハイイールド社債は特に魅力があると見ています。直近6ヶ月でスプレッドはやや正常化したものの、歴史的には依然として拡大しており、特に新興国のハイイールド社債のデュレーションが短いことを考えると投資妙味は残っていると考えます(図2)。 

また、直近数ヶ月において、トルコやブラジルなどの一部の新興国で発生したリスクの影響を注視しています。このような状況はリスクではありますが、グローバルに事業を展開している新興国企業が、当該企業が属する国が原因で市場から不当に評価されている点に投資機会を引き続き見出しています。 

図2:新興国投資適格と新興国ハイイールドのスプレッド

出所: J.P. Morgan 2021年3月末現在

 

今後の見通し

現在の環境は、エマージング債券市場全体にとって非常に有利であると見ています。同アセットクラスが直面しているリスクは引き続き存在するものの、今後数ヶ月間はプラス成長が見込まれる理由もあることから、ハードカレンシー建てソブリン債券や社債、現地通貨建て債券のいずれもが堅調に推移する可能性があります。しかし、ハードカレンシー建てソブリン債券および社債の発行体は様々であり、パフォーマンスにもばらつきがあるため、すべてを一律に扱うことはできません。このような環境下では、銘柄選択や国別選択が重要になります。私たちの見解では、詳細な分析や国別および企業別リスクの綿密な評価を行うアクティブ・マネジャーは、同ウイルス感染拡大後の回復期を通じて最大の利益を獲得する国および銘柄を見極めることが可能であると考えます。
 

1. 出所: J.P. Morgan 2021年3月末現在
2. 出所: J.P. Morgan 2021年3月末現在

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Omotunde Lawal(オモチュンデ・ラワル)、CFA

CFA、EMEA社債責任者、新興国社債責任者

Cem Karacadag(ジェム・カラジャダ)

新興国ソブリン債券責任者

Dr. Ricardo Adrogué(Dr. リカルド・アドロゲ)

グローバル・ソブリン債券&為替責任者

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