金利上昇からライジングスターに至るまで:今後の投資適格社債の展望
米国国債利回りの上昇により、投資家の一番の関心は金利に向けられています。概して、金利の上昇は各アセットクラスの中でもデュレーションが長い投資適格社債にとって困難な状況をもたらすため、マイナスのトータル・リターンが生じる可能性があります。実際、投資適格社債の第1四半期のパフォーマンスは-4.65%でした。しかし、過去にはマイナスのトータル・リターンにより個人投資家の投資適格債券ファンドからの資金流出が生じたものの、現時点ではまだ生じておらず、第1四半期のある2週間を除く全ての週において資金流入となりました。また、米国国債利回りが変動しているにもかかわらず社債のスプレッドは安定しており、当四半期は91bpsと年初の96 bpsに近い水準で終了しました(図1)1。
図1: 第1四半期の投資適格社債のスプレッドは安定的に推移
出所: Barings 2021年3月末現在
テクニカル面の下支え要因および堅調なファンダメンタルズ
スプレッドが安定的に推移している理由の一つは、投資適格社債が堅調なファンダメンタルおよびテクニカル要因に下支えされていることにあります。航空やホテルなど大打撃を受けたセクターを除くと、企業のファンダメンタルズは昨年と比べて安定しており、今後も経済状況の改善から恩恵を受けると見ています。企業のレバレッジは上昇しているものの予想よりも低い水準で推移しており、企業のバランスシートには多額の現金が計上されています。今後は、企業による資金配分が大きな課題となります。企業が現金を負債の返済に充当すれば、レバレッジは通常の水準に戻る可能性があります。ハイイールドに格下げされる可能性が高いBBB格の中でも低格付け企業では、特にこのような傾向が見られます。一方、A格の企業は、レバレッジの引き上げや成長機会の追求などの余地が残されていると見ています。
テクニカル面からは、昨年の新規発行額が過去最高となる2兆1,000億米ドルにのぼったことから、2021年は通常の水準に戻ると予想されました。しかし、金利のさらなる上昇前に数多くの企業が市場で資金調達を行ったことから年明け以降発行額が急増し、3月末時点で4,421億米ドルに達しました2。この結果、同四半期半ばにはテクニカル面で若干の悪化が見られたものの、その後複数の理由から需給関係は正常に戻り始めました。まず、米連邦準備制度理事会(FRB)が当面の間金利を低位に維持することを示唆したことから、発行ペースが正常に戻りました。
さらに、ヘッジコストが大幅に縮小したことに加え、世界にはまだかなりの低利回りもしくはマイナス利回りの債券が存在することから、米国社債に対する機関投資家の需要は特にアジアや欧州の海外投資家を中心に堅調に推移しています。実際、同アセットクラスの機関投資家にとって、特に金利上昇はネガティブなことばかりではありません。昨年は、金利および社債の利回りがほぼ過去最低水準であったため、一部の機関投資家は資産と負債のマッチングに課題を抱え、低格付けかつ高利回りのアセットクラスへの配分を検討せざるを得ませんでした。今年の金利上昇が利回りの上昇につながったことから同課題がある程度解決されたため、同アセットクラスへの資金の再流入につながりました。
機会が見込まれる分野
スプレッドが現在の水準から大幅に縮小するとは考えにくいものの、下支え要因や持続的な経済成長は今後の企業格付に有益となると見ており、今後数ヶ月間に選別的な機会が見出されると考えます。興味深い傾向として、ライジングスター、つまりハイイールドから投資適格に格上げされた企業が挙げられます。昨年は2,380億米ドルが投資適格から格下げされましたが、今年はこれらの企業の多くが早急に投資適格に格上げされると見ています。実際、ネットベースでは格下げよりも格上げの方が多いと思われます。これは、同ウイルス感染拡大後の環境への対応が可能となるよう格付会社が企業に猶予を与えていることが一因です。また、ハイイールドに比べて有利な資本コストや資本市場へのアクセスなどの点から、企業が投資適格にとどまる、もしくは投資適格に格上げされることに対するインセンティブもあります。
このような格上げの可能性のあるユニバースの中ではエネルギー・セクターが際立っています。昨年、同セクターの企業は、同ウイルスおよび原油価格の急落により特に大打撃を受けました。天然ガス価格も低迷した結果、数多くの企業が格下げされました。現在、原油価格は1 バレル60米ドル前後、天然ガスは2.5米ドル前後で推移しており、キャッシュフローの下支え要因となっています。さらに、業界全体で規律が強化された結果、企業の多くがレバレッジ水準低下のために実質的な措置を講じました。これらの要因により、天然ガス企業の Cenovus 社をはじめ、すでに今年に入って格上げされており、今後もさらなる格上げが期待されます。
今後、グローバル経済の成長見通しがポジティブであることやFRB が緩和的な政策をとっていることなどが、投資適格社債にとって引き続き下支え要因となると思われます。とはいえ、ワクチンの普及や金利のさらなる上昇の可能性など、多くの不確実性が存在しているのも事実です。このような環境下では、従来の社債以外の商品、特に ローン担保証券(CLO)や資産担保証券(ABS)などの証券化商品に目を向けることが有効であると考えます。例えば、ABSは多様であるため、広範な投資適格の一部として配分することにより分散効果が期待できます。CLOも、特に変動金利の性質と強固な構造的保護により、従来の社債と並んで多くの恩恵を享受することが可能となります。しかし、投資適格社債全体から機会を見出すとともに、将来大きな課題に直面する可能性のある企業を回避するためには、厳格なファンダメンタル分析に基づいた個別銘柄アプローチが依然として重要です。
1. 出所: Bloomberg Barclays U.S. Corporate Index 2021年3月末現在
2. 出所: Bloomberg Barclays U.S. Corporate Index 2021年3月末現在
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