エマージング債券:トンネルの出口の兆し
第3四半期末にかけて低迷したエマージング債券は、ワクチンに関するニュースやコモディティ価格の高騰などを背景に第4四半期は堅調に推移しました。また、新興国経済見通しの主要な牽引役である中国の経済指標も下支えとなりました。過去最大規模の下落が見られたものの、2020年のパフォーマンスは、ハードカレンシー建てソブリン債券、社債、現地通貨建て債券がそれぞれ5.26%、7.13%、2.69%となりました1。スプレッドは全体的に縮小し、新型コロナウイルス感染拡大時のスプレッドの拡大分をほぼ相殺しました。出遅れていた新興国通貨もわずかに回復しましたが、同ウイルス感染拡大以前の水準をはるかに下回っています。
図1: エマージング債券の2020年パフォーマンス
出所: J.P. Morgan 2020年12月末現在
新興国通貨:明るい兆し?
新興国通貨は依然として全体的に出遅れていますが、今後の同資産クラスに魅力的な投資機会をもたらす可能性のある多くの追い風が吹いています。1つには、エマージング市場の多くは、同ウイルス感染拡大の影響により消費が低迷し資本流出が抑制されたことから、エマージング市場全体では経常収支赤字が縮小しており、一部の国では経常収支黒字が継続しています。例えば、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、インドネシアなどでは、赤字が大幅に縮小もしくは黒字となっています。これは、本質的に、エマージング諸国の資金ニーズの低下、すなわちバランスシートの改善を意味します。同時に、多くのエマージング諸国の輸出は、中国からの持続的な需要を背景に、コモディティ需要が弾力的であったことから2020年後半に大幅に回復し、予想を大幅に上回りました。
これは、仮にエマージング市場へ資金が流入した場合、数ヶ月もしくは数年先のアンダーパフォーマンスを逆転するほどの力が作用する可能性を示唆しています。以下に述べるように、現在、新興国通貨は大きなアップサイドの可能性を秘めていると考えます。
ハードカレンシー建てソブリン債券:依然として分岐点
債券に目を向けると、同ウイルス感染拡大の影響は国毎に大きく異なるものの、ハードカレンシー建てソブリン債券は引き続き困難な状況に直面しています。格下げおよびデフォルトは当初の予想を下回っており、また、コモディティ価格の上昇と相まって、ワクチン接種の開始を踏まえれば、一般的には翌年のデフォルトは抑制されると見ています。そのため、投資適格国であるコロンビア、メキシコ、ルーマニア、ブラジル(社内格付における投資適格国)において引き続き価値を見出しています。ハイイールド(非投資適格)においては、資金調達手段が悪化している国を回避することに引き続き焦点を当てていますが、例えばウクライナのように危機を比較的適切に乗り越えた国においては、選別的な投資機会を見出します。
とはいえ、第4四半期のパフォーマンスは概ね堅調で、インデックスのスプレッド水準は2020年の拡大分をほぼ回復したものの、JPモルガンEMBIグローバル・ディバーシファイド(EMBIGD)インデックスに含まれる70ヶ国以上の債券のトータル・リターンには大きな乖離が見られました。実際、2020年の債券のパフォーマンスがプラスとなった国がある一方、大幅に下回った国も見られました。すなわち、どの国を選別するかが非常に重要だったということです。特に、未知の環境下では、ハードカレンシー建てソブリン債券はベータ資産クラスではなく非常に多様な投資機会を有する資産クラスと見なされるべきですが、アクティブ運用は必要不可欠であり、適切な銘柄選択の実行と不適切な銘柄の回避がさらに重要なポイントです。
社債:新しい日常への適応
先進国と同様、エマージング諸国の社債は同ウイルス感染拡大時に多大な影響を被りましたが、その後まもなく、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)だけでなく、エマージング諸国の中央銀行や政府が景気刺激策やその他救済策など必要とされる救済措置を採ったことから、目覚ましい復活を遂げました。年後半には、中国からのコモディティ需要が持続的に回復の兆しを見せたことも同資産クラスを下支えしました。
第4四半期にはワクチン関連のニュースに進展が見られましたが、ワクチン普及に伴う執行リスクは依然として高く、多くのエマージング諸国は今年後半までワクチン接種プログラムが行き渡らないとみられています。暗いトンネルの出口が少し見えているものの、同ウイルスに伴う規制が複数のエマージング諸国において当面の間実施される可能性があることを踏まえると、エマージング諸国が先進諸国に遅行する可能性が非常に高いです。そのためには、長期にわたる需要の低迷に耐えられる、もしくは新しい日常に適応可能な回復力のあるビジネスモデルを特定することが依然として重要です。公益事業や消費、電子通信、メディア&テクノロジー(TMT)などのディフェンシブ・セクターの企業に引き続き投資機会を見出しています。eコマースやフード・デリバリーなどエマージング諸国全体の構造的トレンドにさらされている革新的なビジネスモデルを有する企業はより回復力があると考えます。実際、このような企業から新規発行や新たな供給が出てきており、今後数ヶ月もしくは数年以内にさらに増加すると期待しています。逆に、同ウイルスの影響に敏感な空港や航空会社、高速道路などの運輸セクターの企業およびゲーム会社などは、引き続き厳しい状況に直面する可能性があります。
結論
エマージング諸国には確実に明るい兆しが見られるため、ワクチンが普及しグローバル経済が再開した時、引き続き投資機会が見出されることを期待しています。それにもかかわらず、政治的な緊張や先進国市場において金利が長期間上昇する可能性、市場に潜在的なリスクをもたらす可能性のある銀行のモラトリアムや規制緩和などの支援策の縮小など、ハードカレンシー建てソブリン債券や社債に対するリスクが数多く存在しています。このような環境下では、最も回復力のある国や銘柄を特定するボトムアップ・アプローチを採用するアクティブ運用が引き続き必要不可欠です。
1. 出所: J.P. Morgan 2020年12月末現在
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