引き続き、追い風を享受するハイイールド
新型コロナウイルス感染症のワクチン普及、経済活動の再開および消費の拡大に牽引され、市場はグローバルに亘り好調な環境となっていますが、ハイイールドも例外ではありませんでした。第2四半期において、ハイイールド社債およびバンクローンは共にプラスのリターンとなり、当初、米国債利回りの変動性が高まったことにより、バンクローンはハイイールド社債をアウトパフォームしたものの、四半期末にかけて米国10年債利回りが安定的に推移したため、最終的に両資産クラス間のパフォーマンスは逆転しました。同四半期において、米国ハイイールド社債がハイイールド資産全体において最も優れた2.79%のリターンとなった一方、欧州ハイイールド社債の1.60%がそれに続きました1。また、米国および欧州のバンクローンは各1.44%および1.35%のリターンとなりました2。全体として、新型コロナウイルス感染拡大およびその後に続くロックダウンから特に大きな影響を受けたエネルギー等の景気敏感セクターがパフォーマンスを牽引しました。
ファンダメンタルズおよびテクニカル面からの追い風
ファンダメンタルズの観点においては、ハイイールド全般に関する環境は堅調であると思われます。米国および欧州双方におけるデフォルト率は低く、特にディストレスト状況にある発行体の割合が数年ぶりの低水準にあることから、本年のデフォルト率は過去平均である2~3%の圏内に留まると予想しています。また、企業の収益、売上およびキャッシュフローにおいては、本年から2022年にかけて予想される消費の回復が引き続き支援材料になると見ています。インフレに対する懸念は依然残り、6 月に米連邦準備制度理事会(FRB)が予想外のゼロ金利政策の解除前倒しを示唆したことにより、インフレに対する懸念は高まったものの、多くの企業はこれまでのところ、インフレによる原材料価格の上昇を販売価格へ転嫁することに成功しています。
好調な経済状況およびデフォルト予想の改善により、スプレッドは大幅に縮小しました。しかし、ハイイールド社債およびバンクローンの足元におけるスプレッドは、世界金融危機以降の最低水準近辺で推移しているものの、依然世界金融危機以前を含めた過去最低水準よりも拡大した水準にあり、投資適格社債と比較しても魅力的な水準にあります。また、グローバル・ハイイールド社債市場に占めるBB格の割合は、2007年の35%から足元60%近辺にまで増加し、歴史的に見て同市場のクオリティが大きく改善していることは注目すべき事実であると考えます3。このような市場全体のクオリティ改善は、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの大型の投資適格級企業がハイイールドへ格下げされ、昨年においてフォーリン・エンジェルが記録的に増加したことが一因であると思われます。特に米国市場においては、今後、2,000億米ドルに上るハイイールド社債が投資適格級に格上げされる可能性があり、格上げ候補銘柄に関する豊富な投資機会が存在することを物語っています4。
年初来におけるハイイールド社債の発行額は、米国および欧州において各約2,900億米ドルおよび約800億ユーロとなり、本年は過去10年間において最も早いペースで発行が進んでいる年の一つとなっています(図1)。リファイナンスは発行の大宗を占め、多くの企業が将来の潜在的な金利上昇を見据えて、積極的に借り換えを実施しています。資本調達の活発化は、一部の発行体において今後レバレッジの解消を開始する必要性を示唆していますが、殆どの発行体は満期時に危機をもたらす可能性がある負債について既に積極的な対処を行っており、本格的な満期の壁が到来するまでに数年間の時間的猶予を有すると思われます。足元の活発な供給と均衡して、需要も引き続き旺盛な状況にあります。
図1:米国および欧州におけるハイイールド社債の発行は急増
出所: S&P LCD 2021年5月27日現在
変動金利の有効性
新型コロナウイルスの感染拡大を経て、継続的な経済成長が期待される中、いずれFRB が量的緩和の縮小を開始し、最終的に利上げの実施に向かうと予想することは妥当であると思われます。このような環境の中、バンクローンなどの変動金利商品への投資を検討することは非常に有益であると考えます。バンクローンは通常、市場金利に対応して3ヶ月毎に支払い金利がリセットされるため、短期金利の動向が価格に及ぼす影響は限定的であり、これまでの米国および欧州の金利上昇局面において、ある程度その価格の下方硬直性について示すことに成功しています。バンクローンはまた、資本構造の上位に位置することから、劣後債および株式よりも優先的に弁済され、発行体の資産の一部または全部が担保として設定されることにより、信用リスクに対する追加の保護を獲得可能です。金利上昇局面においてはローン担保証券(CLO)に対する投資もまた有効であり、バンクローン同様CLOのクーポンも変動金利であることから、金利リスクを抑制することが可能です。
一方、ハイイールド社債は固定金利であるものの、他の債券関連の資産と比較してデュレーションが短いことから、リフレーション環境下においては、引き続き魅力的な投資対象であると考えます。例えば、投資適格社債の平均デュレーションは8年超であるのに対し、ハイイールド社債の平均デュレーションは4年程度となっています5。
今後の市場を乗り越えるため
経済は回復基調にあり、企業は潤沢な流動性によって支えられていますが、下半期においては同時に多くの不確実性も存在すると見ています。その一つとして、新型コロナウイルスの感染拡大について、先進国は既に最悪期を脱した可能性がありますが、他の地域、すなわちアジアにおいて同ウイルスの感染拡大が再燃した場合、増加する消費者の需要を満たすことに苦慮している企業のサプライチェーンを脅かす可能性について指摘されています。また、米国および欧州の企業は労働力が不足する問題に直面しており、十分な労働力の確保に注力しています。
今後数ヶ月間に亘り、多くの投資家が引き続き利回り目標の達成に向けて課題を抱える中、戦略的にハイイールド社債およびバンクローンに対する需要は継続すると見ています。短期的にボラティリティが上昇する可能性を考慮した場合、米国および欧州のハイイールド社債およびバンクローンのみならず、CLOなどの非伝統的な市場にも投資を行うマルチクレジット戦略への投資が特に有効であると考えます。マルチクレジット戦略は魅力的な追加スプレッドの獲得に加えて、柔軟な戦略の特徴を生かすことにより、各時点において最も魅力的な投資機会を提供する地域および資産クラスに対して重点的な投資を行う一方、最大のリスクが存在する地域および資産クラスを回避することが可能となります。
1. 出所: Bank of America Merrill Lynch、 2021年6月末現在
2. 出所: Credit Suisse、 2021年6月末現在
3. 出所: Bank of America Merrill Lynch、 2021年5月末現在
4. ベアリングスにおける投資適格/非投資適格の社内データに基づく
5. 出所: Bloomberg Barclays、Bank of America Merrill Lynch、 2021年6月末現在
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