北米プライベート・クレジット:予想に対し、現実は比較的良好

2021年2月 – 4 分 レポートを読む
北米のプライベート・クレジットに対する新型コロナウイルスの影響は、一部分においては驚きをもって受け止められたものの、その多くは予想通りとなりました。足元の市場環境を乗り越えるにあたり、過去1年間で得た教訓をもとにイアン・ファウラー(Ian Fowler)が解説します。

新型コロナウイルスおよび全世界で長期間実施されたロックダウン(都市封鎖)の影響を背景に、資金繰り問題に直面した企業や追加で資金募集せざるを得ないマネジャー(運営ファンドの資金手当てのため)にとって、プライベート・クレジット市場は困難な状況となりました。しかし、過去1年間を振り返ると、北米において同ウイルス関連の危機が拡大するにつれて、ポジティブなサプライズも発生しました。特に、2020年第3四半期および第4四半期の取引量は、ほぼ完全なバーチャル環境にあって、ほとんどの市場参加者が取引可能と考えた水準を上回りました。実際、プライベート・クレジットの取引におけるリレーションシップの重要性を考慮した場合、危機の初期段階においては、活動が低迷し取引の成立が困難になるとの見方がありました。しかしながら、実態は予想と異なり、スポンサー、借り手企業の経営陣および貸し手のすべてが、物理的な距離を要求される状況を乗り越える方法を見出してきたと思われます。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う今般の危機は、ほとんどすべての企業やセクターが影響を受けた過去の景気後退と異なり、より影響を受ける対象が絞られてきました。特に今般の危機においては、ベアリングスが投資をしない、レストランや小売りといった流行性のあるセクターを中心とする接客を伴うビジネスや、石油、ガス、鉱業などの景気感応度の高いセクターが大きな影響を受けました。そのため、当該セクターに対してエクスポージャーを有する貸し手は、ポートフォリオに内在する問題の対処に多くの労力を費やす必要があった一方、エクスポージャーが少ないもしくは皆無であった貸し手については、追加投資に注力し、危機後に到来した魅力的な取引条件を享受することが可能となりました。
 

「退屈な事業」の中に未だ魅力あり 

実際、今日における北米プライベート・クレジット市場は、危機直前と比較して、多くの案件においてレバレッジ水準の低下、契約書の厳格化およびプライシングの改善が確認され、極めて健全な状況にあると思われます。また、スプレッド水準についても改善傾向にあり、業種によって異なるものの、50~100bps程度拡大している状況にあります(図1)。市場全体を見渡した場合、引き続きベアリングスが伝統的もしくは真のミドルマーケットと考える、EBITDAが1,500-5,000万米ドルの企業において、最も魅力的な投資機会が存在すると見ています。 

この伝統的なミドルマーケットにおいては、最終的に危機をもたらす可能性があるリスクの高い投資から比較的隔離された、第一抵当権付きシニア・デットと呼ばれる資本構造上より保守的な部分に対して特に価値を見出しています。ミドルマーケット企業の資金需要を満たす能力と意欲を有する貸し手にとって、キャッシュフローの可視性が高く、業績の変動が小さい「退屈な事業」は、魅力的な価値および高いリスク調整後リターンを長期的にもたらす可能性があると見ています。

今後金利が上昇する局面においても、北米プライベート・クレジット市場は魅力的な資産クラスであると思われます。多くのミドルマーケット企業のローンは、一般的にLIBORフロアが設定された変動金利商品として組成されているため、金利上昇に対する耐性が備わっています。その結果、金利の上昇・下落にかかわらず、市場環境に応じてオールイン利回りを構成するLIBORとクレジット・スプレッド間の構成割合は変動する可能性があるものの、オールイン利回りそのものは非常に安定した範囲にとどまる傾向があります。限定的な金利リスクおよび優先担保付にもかかわらず、非流動性プレミアムを獲得可能な同資産クラスの特徴は、過去10年超に亘り、同資産クラスに対する配分を増やしてきた機関投資家の動きを部分的に説明するものであると思われます。現時点においては、近い将来、同資産クラスにおける前述の特徴に変化が生じることは想定しておらず、グローバル・ソブリン債券の大部分が依然として利回り2%を下回る中、これまで6~8%の利回りを提供してきたミドルマーケットにおける優先担保付ローンへの投資は非常に魅力的であると考えます。
 

図1:ミドルマーケット市場における優先担保付ローンのオールイン・スプレッド推移

出所: Barings、Refinitiv LPC 2020年9月末現在
 

今後予想されること

昨年の政府による一連の支援を受けて、特にレバレッジド・バイアウト案件を中心として、北米における取引量は引き続き活況になると見ています。米国においては、とりわけミドルマーケット企業は経済を構成する中核であり、20万以上の企業において合計数百万の従業員を雇用しています。流動性の高い資本市場に対して、直接アクセスする能力が限定的である状況を踏まえると、これらミドルマーケット企業のほとんどは、資金調達手段としてプライベート市場からの借り入れに依存しています。このため、今後逆風が吹く可能性があるにも関わらず、質の高い企業への投資機会は存在すると確信しています。 

興味深いことに、北米のミドルマーケットにおいては、多くのディストレストの投資機会がこれまでに存在したわけではありません。しかしながら、そのような投資機会が全く存在しないわけではありません。プライベート・クレジットのような透明性が限定的な資産クラスにおいては、マネジャーはしばしば数ヶ月から数年間に亘り、健全でない資産の回収に取り組む場合がある一方、外部の投資家に対してその過程が明確に開示されない可能性があります。そのため、ポートフォリオにおける問題点の有無を確認するため、投資家がマネジャーを詳細に調査することは重要です。リスクに対する耐性および利益の一致を確認するため、マネジャーに関する調査は、案件毎の情報、価格評価方針およびその他の要素にまで調査を掘り下げる必要があります。 

投資規律は最終的に帰結するところであり、マネジャーが大きなスタイル・ドリフトせず、慎重かつ効率的に資金投入してきたことを確認することが重要となります。保守的なアプローチではあるものの、サイクル全体を乗り越えることを目指した運用手法は、魅力的なヘッドラインにはならないものの、長期的には魅力的なリターンを生み出すことが可能と思われます。また、足元見られた不安定な経済状況にもかかわらず、投資家は引き続き、十分に実証された規律あるクレジット審査手法、ポートフォリオの分散および長期的なリスク調整後リターンの最適化に注力することが重要であると考えます。 

※このレポートは、直近のポッドキャストをもとに作成されています。ポッドキャストはこちらから視聴できます。
 

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