金利から成長、そして中国へ。エマージング債券の今後は?
エマージング市場では、7-9月期において、新型コロナウイルスのデルタ株の世界的な拡散や中国における規制強化などを背景に市場のボラティリティが上昇し、不確実性が高まりました。その結果、エマージング社債、ハードカレンシー建てソブリン債券、現地通貨建て債券の当期のリターンは、それぞれ0.25%、-0.70%、-3.10%となりました1。しかし、同資産クラスは、回復基調にある世界経済や多くの新興国におけるワクチン接種の進展などから引き続き恩恵を受けています。
ハードカレンシー建てソブリン債券および現地通貨建て債券:逆風下におけるサポート要因
エマージング市場は、中国における規制強化や先進国における利上げ予想による影響を受けていますが、同資産クラスの長期的な見通しが依然として明るいと考える理由があります。例えば、新興国の多くではここ2、3年、資金調達の必要性が低下しており、また、新型コロナウイルスの感染拡大以降、コモディティ価格の上昇や安定した需要に支えられ、域内の貿易収支は大幅に改善しています。その結果、先進国の金利上昇が新興国の海外からの資金調達能力に影響を与える可能性はあるものの、現在、多くの国で外国人投資家からの資金調達への依存度が低くなっており、資金流出への耐性が高まっています。
図1:新興国の貿易収支は劇的に改善
出所: Bloomberg 2021年7月末現在
一方で、先進国市場と新興国市場双方における足元の経済回復基調に支えされ、新興国全体の成長見通しは引き続きポジティブであると考えています。特に、先進国市場における財政力の向上が、新興国の商品やサービスに対する需要を下支えしています。また、新型コロナウイルス感染拡大後に実施された債務返済猶予措置(モラトリアム)による資本支援は継続されており、引き続き新興国に恩恵をもたらしている他、ここ数年ほぼ横ばいであった世界貿易も再び活発化しており、これが引き続き同資産クラスを支えていくものと思われます。
短期的には課題はあるものの、これらの要因はハードカレンシー建てソブリン債券および現地通貨建て債券を幅広く下支えする背景になると考えています。ハードカレンシー建てソブリン債券においては、投資適格国および非投資適格国双方に引き続き投資機会を見出しています。コロンビアやモロッコ、セルビアなどのBB格の発行国は、新型コロナウイルスの感染拡大後の環境下において、多くの場合、投資適格国に比べてスプレッドが拡大していることから、特に魅力的であると考えています。しかし、発行国毎の多様性、複雑性、パフォーマンスの大きなばらつきを考慮すると、投資機会を見出し、常時存在する「悪いリンゴ」を避けるためには、ボトムアップ・アプローチと国別選択を組み合わせたアクティブ運用が重要です。現地通貨建て債券においては、強弱混合な状況になると思われます。特に、海外からの資金調達への依存度が高い国では、金利上昇局面で現地通貨が逆風にさらされることはほぼ確実です。国内の金利も影響を受けるでしょうが、南アフリカやブラジル、メキシコなど、経常収支が徐々に改善している国は有利な立場にあると思われます。
社債:ボラティリティから投資機会へ
中国共産党による規制強化、特に、不動産やテクノロジー、教育などの分野における新たな規制や罰金処分などを背景に、当四半期の社債市場は混乱に陥りました。中国の不動産開発業者である中国恒大集団(エバーグランデ)に関する懸念や、それが不動産セクターの他の発行体に波及する可能性から、市場は不安定性を増しています。
進行中の規制強化策や、特に不動産セクターの活動低下により、中国の経済成長が鈍化すると、他の地域の新興国にも波及する可能性がありますが、その影響は一様ではないと思われます。例えば、中国は世界の金属需要の約50~75%を占めていることから、金属・鉱業関連企業は悪影響を受ける可能性があります。一方、エネルギー・セクターにおける中国の消費量は、世界の消費量の約10~12%と直接的な依存度は低いことから、引き続き堅調に推移すると思われます(図2)。
図2:商品別の世界需要に占める中国の割合
出所: J.P. Morgan予測 2021年9月現在
今後、新興国企業は回復する世界経済から引き続き恩恵を受ける一方で、サプライチェーンの混乱によりインフレ圧力が悪化し、利益率を低下させる可能性があるため、状況はより厳しくなるかもしれません。現在、中国ではエネルギー使用量の目標達成のために停電が実施されていますが、これにより商品がさらに不足するため、困難な状況が拡大する可能性があります。プラス面では、新興国企業全体では、ファンダメンタルズの観点から非常に堅調に推移しています。売上高およびEBITDAは、多くの発行体において新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻っており、世界経済の回復が進むにつれ、さらなる改善が期待されます。苦境に立たされている中国の不動産セクターを除けば、レバレッジ水準も全体的にかなり健全で、多くの場合、新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻っています。今後、新興国企業のデフォルト率は上昇する可能性がありますが、デフォルトは主にアジアに集中すると考えています。
このような背景から、特に先進国市場と比較してスプレッドが拡大したままであることから、エマージング社債は引き続き魅力的な投資対象であると考えています。例えば、エマージングの投資適格社債は現在、先進国市場の同セグメントに対して約20~30bpsのプレミアムを提供している一方、非投資適格社債は約50~70bpsのプレミアムを提供しています2。また、グローバルに事業を展開している新興国企業の中には、その企業が所在する国の特殊なリスクのために市場に正当に評価されていない企業があります。これらのリスクは、しばしば企業のスプレッドをファンダメンタルズが示唆する以上に拡大させる要因となりますが、足元では、中国、インド、トルコで見られたように、魅力的な価格で堅調な発行体を見極める投資機会も生まれています。また、現在の環境下では、エマージング・ショート・デュレーション戦略を検討することもメリットがあります。これは、より低いボラティリティで、より高い利回りと分散を得る機会となります。
今後の見通し
先進国市場の利上げや中国の政治および規制状況、地政学的な緊張など、様々な不確実性が存在しています。これらの要因やその他多くの要因により、短期的にはボラティリティが生じる可能性がありますが、市場の非効率性を特定し、それを活用する投資機会が生じると見ています。しかし、市場の混乱時においてディフェンシブな国や企業を見出すだけでなく、脆弱な発行体やそれによるリスクを回避するためには、ボトムアップのファンダメンタル分析が最も重要です。
1. 出所: J.P. Morgan 2021年9月末現在
2. 出所. J.P. Morgan 2021年9月末現在
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