エマージング債券:ノイズの中を進む
米FRBによる利上げの可能性やオミクロン株、中国などの懸念材料はあるものの、ハードカレンシー建てソブリン債券、社債、現地通貨建て債券には選別された投資機会が存在します。
2021年10-12月期は、エマージング債券投資家にとってリスクが大幅に拡大しました。中国では、大手不動産デベロッパー2社が債務不履行に陥りました。ロシアがウクライナとの国境における軍備増強を継続したため、地政学的緊張が高まりました。また、多くのエマージング諸国で金利が上昇し、ブラジルでは金利が急上昇したほか、すでに金利が上昇途上にあった中東欧諸国では金利上昇のペースが加速しました。同時に、米連邦準備制度理事会(FRB)は、高まるインフレ率に対してタカ派色を強め、2022年初までに資産買い入れプログラムを縮小し、直後に利上げを行う可能性があると発表しました。このような状況から、ハードカレンシー建てソブリン債券、社債、現地通貨建て債券の当期のリターンは、それぞれ-0.44%、-0.61%、-2.53%と軟調な結果となり、スプレッドは全体的に拡大しました1。
数多くあるリスク
中国: エマージング市場全体における投資家にとって最大の関心事は、中国の動向と思われます。具体的には、中国の経済成長が鈍化している可能性を示唆する指標が公表されていますが、より大きな問題は、投資家にとって中国の方向性を理解することが難しくなっていることです。また、中国では、情報技術や私立教育、不動産といった特定の業種に厳しい規制を課しており、不動産に対する規制は、すでに減速している重工業などの業種にも影響を及ぼし始めています。GDPが13.4兆米ドルの世界第2位の経済大国である中国が、新興国および先進国の両市場の需要に重大な影響を与えていることを考えると、この傾向には不安を感じます。
タカ派色を強めるFRB: FRBは積極的にインフレに対処することをコミットしているため、今後の利上げの方向性や流動性の縮小について疑問が生じています。よりタカ派的なスタンスは特に新興国通貨にとっては困難な状況であり、特定の国では通貨安につながる可能性があります。固定もしくは硬直的為替相場の国が最も困難に直面する可能性が高いものの、ブラジルやペルー、インドネシアのように変動為替相場の国は有利な立場にあると見ています。
2022年の利上げ回数は3回以上と予想されていますが、金融引き締めに向けてより積極的な道を歩むことを示唆するある兆候が見られました。ブレークイーブン・インフレ率(米国国債とインフレ連動国債の名目利回りの差)が第4四半期に低下したのです。図1に示すように、米国10年物ブレークイーブン・インフレ率は、12月末時点で2.61%に低下しました。直近のデータを示す赤色の線は過去12ヶ月の最低値には達してはいないものの、数ヶ月前のピーク時に比べて大幅に低下しています。
図1: 消極的なFRBのシグナルの可能性
線グラフは1週間の計測値、最新の値は赤色にて示されている
出所: Bloomberg 2021年12月末現在
当チームの見解として、これは投資家がインフレ率をどう見積もっているかを示すため考慮すべき重要な指標であると考えており、ブレークイーブン・レートの継続的な低下は、FRBがより積極的でないスタンスを取る理由としては十分であると思われます。
1. 出所: J.P. Morgan 2021年12月末現在