2022年を占う(インフレは一時的か)
年末恒例の流行語大賞の候補が公表された。金融市場に限って言えば、2021年の流行語大賞の有力候補には、「一時的 (Transitory)」が挙げられるだろう。夏場の米国の物価上昇率の高騰を、米連邦準備制度理事会(FRB)のメンバーの多くは一時的なものであるとの判断を示してきた。市場も中央銀行の説明を肯定的に受け止め、米国10年国債利回りは8月初頭に1.2%にまで低下し、株価は堅調地合いを維持してきた。しかしながら、秋口以降の物価指数の伸びの加速に市場は揺れ動いている。最近では「一時的」に代わり、「一時的なれども短期にあらず (Transitory but not short-lived)」という巧みなレトリックが中央銀行筋から聞こえ始めている。
中央銀行の政策担当者と市場参加者のそれぞれがイメージする「一時的」の時間軸のミスマッチが事態を複雑にしている。中央銀行側がイメージする一時的とは1~2年程度のものであろう。一方、市場は2、3ヶ月の動きからトレンドを先読みする傾向にある。今年の4月から米国の消費者物価の上振れ傾向が続いていることから、2022年は「一時的」論争の決着がつく時間帯に入ることになる。
しかしながら、市場は既に中央銀行が「一時的論争」に敗れ、金融引き締めに進むことを織り込み始めた。いち早く利上げに乗り出したロシアやチェコの債券市場では、短期金利が長期金利を上回る逆イールドが出現している。また、英国では20年国債利回りが30年国債利回りを上回り、局所的に逆イールドが発生している。市場の焦点はインフレ動向に集まり、短期金利の急変動を招いている。ただし、逆イールドは一般的に景気後退の予兆の一つと見られており、逆イールド状況下の相対的な長期金利の安定は将来的な景気後退を織り込んでいると見ることも出来よう。
確かに景気のピークアウトを示す指標は散見される。2010年代以降、世界景気のけん引役の一つである中国の景気減速は鮮明であり、直近のGDP成長率の前年同期比は4.9%に減速している。インフレ対処のための性急な金融引き締めがインフレ抑制後の景気減速を加速させてしまうリスクを孕むことを鑑みれば、インフレ懸念に対して、「今は一時的」のレトリックに頼ろうとする中央銀行の姿勢は理解できる。
モノやサービスの価格上昇の背景には、一般的に供給の制約と需要の増加という2つの要因がある。今回のインフレ懸念の背景にあるサプライチェーンの寸断という供給制約については、コロナ禍の終息に応じて対人サービス中心に労働供給が開始され、企業活動が正常化していくことが見込まれる。また、需要増加を支えているリベンジ消費も時間の経過と共に落ち着きを見せるであろう。資源価格の増加に対しては、価格上昇それ自体が供給を増やす動機付けとなる市場メカニズムがいずれは働くものと予想される。来年1年間をかけて考えれば、時間はかかったけれど、やはりインフレは「一時的」だったという結論に達するものと見ている。従って、債券投資の基本姿勢は押し目買いとして2022年に臨みたい。
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