ハイイールド:波立つ海の中で着実に進むために
すでに金利上昇および景気後退懸念に対応していた市場に米地銀に関するストレスが加わり、第1四半期にボラティリティは高まりました。しかし、企業ファンダメンタルズは健全であり、ハイイールド債券の投資家や発行体は、懸念よりも慎重な姿勢を示しています。
シリコンバレーバンクおよびシグネチャー・バンクの破綻をきっかけに、3月に数多くの株式投資家が安全資産へ逃避し、その過程で債券市場としてはまれなボラティリティが生じました。米国国債の価格が急上昇したため、オプション調整後の米国ハイイールド債券のスプレッドは400bps台から520bpsに拡大し、その後数週間で約470bpsに低下しました1。市場の出来高が極端に少ないことやハイイールド投資信託からの資金流出が小幅であることからも明らかなように、未曾有のボラティリティにもかかわらずハイイールド債券の投資家はパニックに陥ることなく静観しました。投資家にとっても、発行体にとっても、混乱が収まるのを待つのが賢明な選択だったと思われます。
市場要因
銀行システムの健全性に対する懸念は、第1四半期末にかけてボラティリティを高める新たな要因となりましたが、市場に蔓延した不透明感は2022年3月に米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ開始以来の状況となっています。それ以来、当社は、より高格付けの銘柄に焦点を当て、市場のニッチおよび銘柄選択に留意することを重視しています。欧米の銀行はバランスシート構造が不透明であることから、投資前に必要とされる徹底的なクレジット分析が可能でないため、欧米の銀行セクターに対する直接的なハイイールド・エクスポージャーを有していません。米国のハイイールド・インデックスにおける銀行に対するエクスポージャーは1%未満と低位である一方、欧州では約13%と大きくなっています2。
ジェットコースターのような激しいボラティリティの中、ハイイールド債券およびバンクローン市場のテクニカル面は引き続き安定しています。バンクローン市場では、少量の新規発行およびマネジャーの多額のキャッシュ保有により、市場は堅調に推移しています。一方、ファンダメンタルズ環境はややネガティブに変化しています。米国では、昨年の利上げの影響が経済全体に波及し始め、総需要への影響やコスト上昇を招いています。さらに、人件費の上昇も加わり、多くの企業がコストの増加分を販売価格に転嫁することが難しくなっています。第1四半期および第2四半期に発表される企業業績が場合によっては予想を大幅に下回り、ボラティリティを悪化させる可能性があります。
現在の不透明な環境下においても、レバレッジが高くなく、潤沢なキャッシュや資本へのアクセスを有する企業は、どんな困難な状況でも乗り切る可能性を有しています。ハイイールド発行体は、全体としてレバレッジが低くインタレスト・カバレッジ高いため、パンデミック前と比較すると幸いにもこの時期を乗り切るための財務基盤は強固なものとなっています。特に、グローバルのハイイールド債券市場のクレジット格付は過去15年間で大幅に改善しており、現在先進国市場のハイイールド債券の52%をBB格が占めているのに対し、B格は38%となっています(図 1)。
図1: 質の高い市場
出所: Bank of America 2023年3月末現在
近年、デフォルト率は非常に低い水準で推移しており、経済が減速してクレジット状況が厳しくなればデフォルト率が上昇する可能性はあるものの、現在の質の高い市場や強固なクレジット・ファンダメンタルズ(図2)、限定的な短期的リファイナンス需要により、デフォルト率は歴史的平均値に近い水準にとどまると思料されます。厳格なボトムアップの銘柄選択と高格付け銘柄の選好は、デフォルト・リスクを管理する上で引き続き重要となります。
図2: ハイイールド社債は堅調な状態からのスタート
出所: J.P. Morgan 2022年12月末現在
魅力的なトータルリターンの可能性
経済および金利の先行きに関する不透明な状況は継続すると思われ、短期的な予測は難しく、特に市場のセンチメントは不安定となる傾向があります。しかしながら、市場の確実性を見直し現在の乱高下の先を見据えることで、株式との比較だけでなく絶対リターンの観点から見てもハイイールド債券への投資機会の提供が可能となります。
より高い格付けを有するハイイールド発行体は、過去に発生した緩やかな景気後退の影響をほとんど受けませんでした。実際、ボラティリティの高い時期、さらには景気後退期において、ハイイールド債券への投資を維持した投資家は、歴史的に魅力的な長期リターンを獲得しました。これは、ハイイールド債券が株式と異なり、良好なパフォーマンスをあげるために堅調な経済成長を必要としないことが一因です。むしろ、ハイイールド債券に重要なのは、発行体が債務残高に応じた利払いを継続的に行う能力です。GDP成長率が低位もしくは短期間の緩やかなマイナス成長であっても、特にファンダメンタルズが強固かつより格付けの高い市場であれば、デフォルトが大幅に増加する可能性はほとんどありません。
一方、魅力的なクーポンに加え、より高格付の債券が額面より割安で取引されていたため、満期が近付くにつれて価格上昇の可能性を有することから、低格付の債券を保有して過度のリスクを取る必要はありません。例えば、3月末時点では、BB格の債券は平均価格90、期間4年未満、利回り7%前後で取引されていた3一方、優先担保債券市場では平均価格89、期間3年、利回り約8.5%で取引されていました4。
投資家にとって重要なのは、市場の動揺が続く中、忍耐強く乗り越えることができれば、魅力的なトータルリターン獲得の可能性があるということです。
図3: 足元のバリュエーション水準は稀であり、歴史的に見るとその後12ヶ月間は2桁の堅調なリターンを記録
出所: Barings、ICE BofA。2022年12月末現在。グローバル・ハイイールド債券市場は ICE BofA Non-Financial Developed Market High Yield Constrained Index (USD Hedged) (HNDC)。今後12ヶ月間のトータルリターンは、各日付の価格から12ヶ月間のインデックスのリターンを表示。表示期間は、2010年の開始時から2022年の終了時の月末値を使用。例示目的のみ。上記分析は、議論された特定の要素のみを示すことを意図している。上記分析は、潜在的な結果に織り込まれうるすべての要素および変数を表すものではない
1. 出所: Bank of America 2023年3月末現在
2. 出所: Bloomberg。欧州は ICE BofA Euro High Yield Constrained Index、米国は ICE BofA U.S. High Yield Constrained Index。 2023年3月末現在
3. 出所: Bank of America 2023年3月末現在
4. 出所: Bank of America 2023年3月末現在
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