投資適格社債は堅調だが、注意が必要
不確実性の高まりにより、健全な企業のバランスシートを有する比較的魅力のあるトータルリターンが期待できる投資適格社債は、絶好のポジションにあると思料されます。
インフレ率の上昇や金利の上昇、景気後退リスクなど、投資家が直面する数多くの困難に加え、3月に米国の銀行セクターで発生した問題により市場は動揺しました。投資適格社債において、銀行のスプレッドは月内に50bps拡大しました。市場全体は良好さを維持し、当四半期のスプレッドは年初の水準から28bpsの拡大にとどまりました1。より広範に見ると、銀行セクターが直面している課題は、今後の金融情勢の逼迫につながり、信用が低下することで景気後退の可能性が高まると思われます。
図1: 銀行問題の懸念にもかかわらず、投資適格社債のスプレッドは比較的安定的に推移
出所: Bloomberg Barclays 2023年3月末現在
テクニカルおよびファンダメンタルズは依然として健全
このような変動の大きな状況にもかかわらず、市場全体におけるテクニカル面は比較的堅調に推移しています。新規発行市場は、銀行問題の発生により一時的に停止しましたが、その後、公益事業および資本財セクターなどのディフェンシブ・セクターを中心に再開されました。第1四半期の新規発行額は全体で約5,080億米ドルに達しました2。金利の上昇によって発行額が予想より低位であることも、同資産クラス全体のサポート要因となっています。一方、需要は堅調となっています。昨年は、トータルリターンがマイナスになったことが主な原因となって資金流出しましたが、今年は状況が一転し、利回りの上昇により投資適格社債に改めて注目が集まっています。具体的には、今年はほぼ毎週、同資産クラスへの資金流入が記録され、銀行危機が発生した3月末にのみ少量の資金流出が見られました。第1四半期には、同資産クラスに合計で約617億米ドルの資金流入となりました3。
ファンダメンタルズの観点からは、投資適格社債は困難な時期においても良好に推移しています。インフレ率は依然として高く、景気後退リスクも高まっているため、企業の利益率は今後若干低下する可能性がありますが、企業のバランスシートは依然として非常に保守的に維持されています。特に、売上高およびEBITDAは健全であり、レバレッジ水準も低下基調となっています(図2)。とはいえ、金融セクターの発行体や、小規模ハイテク企業など銀行破綻の影響を直接受けている企業のファンダメンタルズには、何らかの影響があると見ています。
図2: 企業のファンダメンタルズは堅調に推移
出所: J.P. Morgan 2022年12月末現在
依然として堅調に推移する投資適格社債
多くの不確定要素が存在する中、短期的にはボラティリティは避けられないと思われます。しかし市場の動向は、特にファンダメンタルズが示唆する以上にスプレッドが拡大しているセクターにおいて、魅力的な機会をもたらす可能性があります。例えば、銀行セクターのスプレッドが大きく拡大している現在、信用面で健全性を維持している銀行、例えば英国を拠点とする銀行には、現在、グローバルの同業他社よりもリスクが低いものの同等のリターン・プロファイルを提供する選別機会が見られます。また、保険会社や一部のREITにも引き続き価値が見出されています。しかし、オフィス・セクターが抱えるリスクを考慮すると、商業用不動産に対するエクスポージャーを有する発行体は、今後、厳しい状況に置かれる可能性が高いと思われます。一方、市場全体では、公益事業などのディフェンシブ・セクターが良好なポジションにあると見られます。
短期的な市場の不安定さにもかかわらず、投資適格社債への投資は依然として堅調です。投資適格社債の強固なバランスシートと健全なファンダメンタルズ、パブリック債券の流動性に加え、トータルリターンの可能性は過去数年よりもはるかに魅力があります。実際、金利の上昇により、過去数年間の一桁台前半と比較すると、現在の投資適格社債の利回りは4.99%から5.49%の範囲に上昇しています4。このため、投資家は今後も債券、特に投資適格社債に循環的に回帰すると思われます。
結論
今後、投資に対してより慎重な姿勢が求められる要因は数多くあります。例えば、銀行セクターのストレスは一部緩和されたものの、金融市場は依然として不安定となっています。同時に、経済指標の見通しは不透明であり、景気後退の可能性を示しているものもあります。このような背景から銘柄選択に対するボトムアップのアプローチが不可欠であり、目の前のリスクを管理するだけでなく、今後の課題に耐え得る発行体を見極めることが重要です。
1. 出所: Bloomberg Barclays 2023年3月末現在
2. 出所: Bloomberg 2023年3月末現在
3. 出所: J.P. Morgan, Bloomberg 2023年3月末現在
4. 出所: Bloomberg U.S. Corporate Index 2023年3月末現在
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