2021年度後半の米国10年国債利回りのレンジを探る
市場の注目を集めていた米国ワイオミング州ジャクソンホールでの年次経済シンポジウムでは、年末にかけての米国金融当局の量的緩和策の縮小(テーパリング)への道筋が示された。現在の市場コンセンサスは、9月、10月の雇用市場の回復ぶりを確認したうえで11月の連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリングが予告され、年内には開始されるというものである。初回の利上げは2023年半ば以降というのが大方の見通しだ。9月に入り、米国10年国債の値動きは落ち着いている。経済再開や来年以降の利上げを織り込めば金利は上昇基調を強めても不思議ではないが、そうはなっていない理由を考えてみよう。
まず、第一にあげられるのは、世界景気がピークアウトした可能性が高いことだ。コロナ禍からの立ち直りが早かった中国の景況感指数は景気減速の兆候を示している。中国の建設需要を反映する鉄鉱石の値動きを見ると下落基調が鮮明だ。原油価格は70米ドル前後で動意に乏しく、コロナ後の経済再開を先取りして上昇してきた商品価格の上昇の勢いは衰えている。景気拡大が持続し、金利も上昇していくという市場の期待は裏切られた格好だ。
第二の要因は、政策転換がもたらす経済への下押し圧力だ。金融政策が正常化へ進み出せば市中へ出回るマネーの量は低下する。加えて、経済再開に合わせて失業補償などの財政支援の打ち切りが始まっている。これまでの景気浮揚を支えてきた拡張的な金融政策、財政政策が手仕舞いの方向へ向かうことは景気に対しての向かい風となろう。財政の大盤振る舞いが手控えられれば国債の発行は減少に向かう。金融政策が正常化に進み、マネーが減少し、財政政策が手仕舞いに向かうことで国債の供給が減れば債券価格は下支えされる。
その一方で世界景気が再び景気後退に向かっていくとの見通しに傾くのも早計である。米中ともにコロナ禍で寸断されたサプライチェーンの影響を受けているものの、建設投資や鉱工業生産の増加基調は維持している。また、米中ともに景気の下方ショックに対する政策余力を持ち合わせている。世界景気は減速すれども景気後退は回避できるとの見方が当面のメインシナリオだ。今年の春先の米国10年国債利回りが1.6%を超えていた時期に市場は世界同時景気回復を織り込んでいたが、その水準を超えていくのは難しいだろう。一方、昨年のコロナ禍が深刻化するなかで米国10年国債利回りが1.0%を下回って推移した状況が再現されるのも今のところは想像しがたい。米国10年国債利回りの2021年度後半の予想レンジは1.00%から1.60%と見ている。
図1: 米国10年国債利回り推移
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